モノクロの世界
僕は35歳になった。
家族も、恋人もいない。
頭も禿げた。
年収は人並みにもらって、福利厚生は良い。
そんなありきたりなおじさんになった。
今の僕を見て、君はどう思うだろうか。
東京に来て13年。
就職と同時に上京して、どんな女遊びをしてやろうかって思ってた。
でも元からの性格通り、1人を好み、たまに彼女を作っては、淡々と生きてきた。
仕事は楽しくはない。苦しくもない。辛くもない。そんな日常を過ごしてると、心はもう動かなくなった。
子どもの頃は、進学して身分が変わるとすんなり溶け込めた。心がウキウキした。
でも社会人は、違う。
産道を上手く通れず、うまく産声を上げることができなかった。学生のときバスケット部で感じた楽しさや悔しさ、苦しさ。バスケットをしているという自信。運動部によりなんとなく感じた自分のヒエラルキーの高さ。不安はあった。仕事がバスケットに代わるのか。
誰といても、何をしても、もう心は動いてくれない。
唇が真っ赤でミニスカートを履いた醜女や、ギターを背負って真っ黒な長すぎるシャツを着たバンドマンを見ても。
今の僕を見て、君はどう思うだろうか。
君とはしゃべったことはない。
高校の3年間、同じクラスになることはなかった。他のクラスの子に声をかけるほど、僕はキラキラしていなかった。
バスケット部というヒエラルキーさえあれば、キラキラしていなくても生きていけた。
静かにしていれば、僕は僕でいれた。
君を見ることができた。君は、鮮やかだった。
あの時の僕を見て、君はどう思っていただろうか。
もう今君を見ても、心は動かないだろう。
君の色は、もう僕には届かない。
みんな結婚して、子どもができた。色を家族に分け与えて、鮮やかな色に囲まれて過ごしている。君も。
僕の色は、もう、僕のために枯れ果ててしまったんだ。
モノクロの僕は、誰のために生きれるんだろう。
仕事が僕の色を奪ったのか。違う。自分で色を捨ててしまった。その場に。
今の僕を見て、君はどう思うだろうか。
子どもの頃、どんな大人になりたいかなんてなかった。
今の自分が大人に繋がっていて、気がつけば働き出して、家族を持つんだと思ってた。
違った。バスケットが、勝手に僕を繋げ続けててくれた。感情を生んで、その感情が僕を繋ぎ合わせてくれていた。
誰もくれない感情を、僕は作り出すことができなかった。
モノクロの世界。
この世界ではもう、君を見ることはできない。
今の僕を見て、君はどう思うだろうか。